園田のV字回復

 園田競馬場と姫路競馬場を運営する兵庫県競馬組合(以下、兵庫競馬)は、2010年度に約5億5000万円の赤字に転落し、同年より県の方針による競馬事業存続の見極め期間(5年間)が始まり、早期の経営改善が求められた。同組合は12年度まで苦しい経営状況が続くが、翌13年度には単年で約5億3000万円の黒字を計上。今年度も大幅なプラス収益で推移しており、5年間の累積は黒字収支で落ち着きそうだ。

 廃止や経営難に陥る地方競馬主催者が現れる厳しい状況の中で、どのような手法で経営を立て直したのか。兵庫競馬の事務局長、松谷全隆氏に話を聞いた。

--まず、単年で約5億5000万円の赤字から、3年で約5億3000万円の黒字収益に回復できた要因を教えてください。

松谷全隆氏(以下、松谷) 大きな要因としては、第1に関西で初めてのナイター競馬をフルシーズン実施できたこと。第2に12年10月から日本中央競馬会(JRA)の在宅投票システム(IPAT)の会員に対してフルシーズン(96日間)の馬券販売が可能となったこと。第3に広島県内に場外馬券発売所を2カ所新設でき、購入の窓口を広げられたことが挙げられます。

 11年度に、経費を大幅に削減してなんとか黒字を出すことができましたが、単年では良くても、長い目で見るとジリ貧な状況にあることは明白でしたので、ナイター開催を含めて大きな改革を断行しました。

--アベノミクスの影響もあるのでしょうか?

松谷 関東に比べ、関西の景気回復状況は芳しくありません。競馬の売得金は、1人当たりの可処分所得に大きく左右されるので、景気の影響がないとはいえませんが、当組合は新しく実施した試みも多く、売り上げ向上の原因は一概にはいえません。1つ1つの要素を考慮しつつ、景気の影響についても今後判断するつもりです。

●困難と見られていたナイターを実施

--08年度に兵庫県より発表された「競馬事業の活性化による報告書」では、ナイター競馬の実施は現状では難しいとの記載がありました。ナイター実施に至るまでに、どのような経緯があったのでしょうか。

松谷 当時は、ナイター実施の際に最低でも30億円程度の費用が必要、といわれていましたが、北海道・門別競馬場が約8億円でナイター設備を整備することに成功したため、それをモデルケースに計画し直したところ、8億8000万円でナイター実施が可能と判明しました。

 既存のお客様だけでなく、若者やサラリーマンや女性など新しい層の競馬ファンを獲得することの必要性を感じていたため、長期的に見てもナイターは不可欠だと考えていましたので、実施を決断しました。

--ナイター実施に伴い、光熱費や固定費などの増減はありましたか?

松谷 光熱費に関しては、自家発電機の導入により、結果的にナイター導入前と比較しても削減できています。固定費に関しても、増加はしていません。

--名古屋競馬場のように、周辺住民の方から反対の声が上がり、ナイターを実施できないというケースも耳にします。そのような問題は園田競馬場でも発生しましたか?

松谷 周辺の12ある自治体に対して調査したところ、賛成が9、反対が3でした。反対された自治体からは、「治安悪化の恐れがある」といった意見を頂きました。そこで来場者が住宅街を通らないように無料のシャトルバスを新たな箇所に増設し、警備の強化を図ることで、概ねのご理解を得て実施に至ることができました。現在まで大きな問題が発生したこともなく、安全面に関しては引き続き細心の注意を払っています。

●PR活動に注力

--ご当地アイドルユニットの結成や、「ちっちゃいおっさん」を応援大使に任命するなど、ユニークなPR活動を実施されていますが、その意図を教えてください。

松谷 流行も取り入れたPR活動を通じて競馬場のイメージアップを図り、若い方にもっと多く来場していただきたい、というのが私たちの想いです。PR活動だけでなく、地域の方に無料で競馬場施設を開放し、グラウンドゴルフ大会や相撲大会の実施、少年スポーツ団の練習や試合会場として利用していただくほか、お祭り会場として施設を提供しています。最近では、将棋のプロ棋士に協力していただき、来場者の方と対局するイベントも行いました。これらはいずれも「明るく、誰でも気軽に利用できる競馬場に」との理念に基づいて実施しています。

--外部へ向けた情報発信の課題と、今後の予定を教えてください。

松谷 現在、ホームページの大幅なリニューアルに取り組んでいます。ほかの競馬場と比較しても弱い部分ですし、ご利用者からも「見づらい」との声を頂いています。早急な改善が必要だと考えています。また、在宅の馬券購入額の増加が著しいため、スポーツ新聞と連携を深め、馬柱(レースの出馬表)の掲載数を増やしていく予定です。

●全国トップレベルの騎手

--兵庫競馬からは、岩田康誠騎手、小牧太騎手などのJRAで活躍するG1ジョッキーを輩出していますが、ほかの競馬場との違いはどこにあるのでしょうか?

松谷 騎乗回数の多さが、要因として大きいと思います。競馬主催者の中で、兵庫競馬の開催日数は、全国一です。実戦を多くこなすことで騎乗技術は向上するため、兵庫競馬出身の騎手は全国でトップクラスにあると考えられます。私の印象では、小牧騎手は努力家タイプです。レースが終わると、そのレースを何度も何度も見直し、徹底的に分析し、次につなげていました。反対に岩田騎手は天才肌です。当日のレースが終わっても、馬場の上でランニングやウエイトトレーニングを行う姿をよく見かけました。恐らく、感覚的に馬場の状態を確かめていたのだと思います。

--現在所属する騎手たちも、将来のJRAで活躍する可能性がありますか?

松谷 10月20日時点の全国騎手勝鞍ランキングでは、田中学騎手、木村健騎手、川原正一騎手の兵庫勢が1~3位を独占しています。岩田騎手や小牧騎手などのトップジョッキーと切磋琢磨し、その姿勢や背中を見て育った騎手も多くいますし、成長できる土壌が整っている、と感じています。

--最後に、兵庫競馬の今後の方向性を教えてください。

松谷 伸び幅が大きい在宅投票システムへの投資、場外馬券発売所の新設など馬券購入の間口を広げることと併行して、多くの方に来場していただけるような魅力ある競馬場づくりに注力していきます。

 競馬を体感していただければ魅力は伝わるという点は、利用者の声から手応えを感じています。新規客の来場数が増えないことには発展は難しいと考えていますので、まずは競馬場のイメージアップ戦略を継続し、その上で新たな競馬ファン層を開拓して定着を図る仕組みづくりや企画など、攻めの姿勢を徹底してまいります。

栗田シメイ/Sportswriters Cafe