地方競馬の復活があるか?

 公営ギャンブルというと、どうしても「汚い」「おじさんの遊び」「治安が不安」といったマイナスイメージをお持ちの方も多いのではないか。だが、近年は若手や家族層への積極的なPRの効果もあってか、競馬場の雰囲気は少しずつ変化を見せている。

 地方競馬全国協会によれば、2013年度の総売得金額の全国計は3553億3044万1500円(前年比106.8%)で、2年連続の増加。1日平均に目を向けても約2億7934万7800円(同115.8%)で、こちらも3年連続の増加となっている。13年度に開催があったすべての競馬場で、総売得金、1日平均売得金ともに前年を上回っており、運営状態は上向きつつある。

 上向いているとはいっても、地方競馬が置かれている状況は依然として厳しい。地方競馬の売り上げは、1991年度をピークに長期低迷傾向にあり、00年代には、大分・中津、新潟・新潟、栃木・足利、宇都宮、島根・益田、山形・上山、群馬・高崎と各競馬場の廃止が相次いだ。10年以降も、熊本・荒尾、広島・福山の各競馬場が廃止され、現在においても、愛知・名古屋競馬、北海道・ホッカイドウ競馬、岩手・岩手競馬のように多額の累積赤字を抱え、存続が危ぶまれている地方競馬もある。

 各地方競馬主催者は生き残りをかけ、ファン獲得のためにさまざまな取り組みを行っている。今回は、兵庫県競馬組合が主催する「そのだけいば・ひめじけいば」を例に見ていきたい。

●ナイター実施がもたらした大きな変化

 兵庫県競馬組合は、10年度に約5億5000万円の赤字を計上し、構成団体の一つである兵庫県の方針として、同年から5年間を競馬事業存続の見極め期間と定められた。早期の経営立て直しを求められた同組合が、売り上げ改善の起爆剤として選択したのがナイター競馬の開催だった。

 12年の9月から短期開催でスタートしたナイター競馬は、翌13年にはフルシーズンを通して実施。結果、13年度はナイター開催が行われる金曜日の来場者数の前年度対比は115.7%、売り上げは135.8%を記録した。

 広報担当者によれば、ナイター実施により来場者の層にも大きな変化があったという。

「今までの固定化したファン層が徐々に高齢化してきており、新しいファン層の呼び込みが課題でした。そこで、ナイター競馬の実施の際に『誰にでも親しみやすい競馬場に』をコンセプトに掲げ、トイレの整備から、定期的なイベント開催など、女性でも来場していただきやすい競馬場づくりを目指すようになりました。ナイター実施後は、若い会社員や家族連れ、女性グループなど、今まで少数派だった方々の占める比率が確実に増えてきています」

 企画面も見直しを図り、ご当地アイドルユニット「SKNフラッシュ8」の結成、尼崎市非公認のご当地キャラクター「ちっちゃいおっさん」を園田競馬応援大使に任命するなど、流行を取り入れたプロモーションを試みた。来場者からは「今までの園田競馬場とイメージが変わった」との声が増えたという。

●進むインフラ整備

 筆者はこれまで国内の数多の地方競馬場を訪れてきたが、若者や家族連れが固定客として定着するにはまだハードルが高い、というのが正直な感想だ。理由としては、運営資金不足からくる施設の老朽化や、子供連れでも安心して観戦できる環境の整備など、インフラ面の問題が大きい。各競馬場とも競馬のレジャー化を掲げているが、東京・大井や神奈川・川崎など一部を除いて、競合するレジャー施設に比べて若年層へのアプローチという点に関しては課題が残る。

 10月某日。ナイター開催日に合わせて、阪急電鉄・園田駅から発着する無料のシャトルバスに揺られ園田競馬場へ向かった。

 車中では50~60代とおぼしき男性たちが、スポーツ新聞の馬柱に目を通している。この日は、そのだけいば出身で日本中央競馬会(JRA)のG1ジョッキーである小牧太が協賛する「小牧太カップ」の開催日ということもあり、長年園田競馬場に通い詰めるオールドファンが多いようだ。

 競馬場到着後、時刻はまだ16時を回ったところで、場内を散策してみることにした。大学生風の若い男性や家族連れがちらほら見える程度で、大多数は中年以上の男性客といったところ。

 そんな様子が一変したのは、18時を過ぎた頃だった。一斉にライトアップが始まり、それを見越したかのようにビールを片手に人々が集まってきた。若いカップルや男女のグループや、スーツを着た仕事帰りのサラリーマンも多い。手始めに若いカップルたちに話を聞くと、「彼氏が競馬好きなので、ついてきた」などと、競馬デートを楽しんでいるといった意見が大半を占めた。仕事帰りに立ち寄ったという会社員グループは「ビアガーデンの季節が終わったので、最近は“競馬飲み”が社内でブームです。100円から食べ物があるので、飲み食いしても2000円程度で財布に優しいところがいいです。馬を肴に乾杯というのも、なかなか粋な遊び方だと思います。帰りに飲み直すことも多いので、阪急電鉄、西日本旅客鉄道(JR西日本)、阪神電気鉄道と各路線に向けて無料バスが運行しているのは大きいです」と、それぞれの楽しみ方で競馬場の雰囲気を満喫していた。

●印象的な女性客の声と今後の課題

 来場者の中には、女性だけで来場しているグループもあった。そのグループに話を聞いてみると、「数カ月前まで競馬初心者でした。旅行先で乗馬を体験して馬に興味を持ち、友達と競馬場に行ってみようと思い立ったのがきっかけです。馬券の買い方もわからなかったのですが、悩んでいる私たちを見て、『おねえちゃん、この馬を買うといいよ』と、馬券の買い方を丁寧に教えてくれる人がいました。その馬券が当たったことで、定期的に来るようになりました。そんなちょっと混沌としていて、非日常な空間もハマった理由ですね」と語ってくれた。

 ほかの女性グループに、「女性だけで競馬場に来ることに不安はないか?」と尋ねてみると、「最初は不安だったけど、実際に来てみると印象が変わった」との答えが返ってきた。今後改善してほしいポイントとしては「きれいなライトアップがあるので、もう少し女性向けの飲食店や飲み物などがあれば、競馬に興味がない友達も誘いやすい」と、改善を求める意見もあった。

 地方競馬の総売得金の増加は、オッズパークや競馬モール、IPATといったインターネット上での馬券購入額の増加によるところが大きく、この上昇傾向がいつまで続くかは不透明だ。兵庫県競馬組合の広報担当者も「新たな競馬ファンを獲得することが最優先課題です。ヘビーユーザーだけでなく、今はあまり競馬に関心を持っていない方々に一度競馬場へ足を運んでもらえるような施策を実施していきたいと考えています。莫大なお金をかけなくても、アイデアで勝負できるはずです」と話す。

 地方競馬が生き残っていく上で、新規のファン層獲得は大きな要素となりそうだ。各主催者が今後どういった舵取りを見せるのか、注目したい。

栗田シメイ/Sportswriters Cafe

 
なかなか難しいですけど…
地方競馬ファンとしては頑張ってほしいですね。